事業脚本家という生き方。

フィールド・フロー代表取締役 渋谷 健のブログ。

地方創生の根深い本音の問題 ~実際に現場で起きてきたこと~

 東京経済の記事に「地方のイベント疲れ」の記事があったので、こちらで自分の意見を整理。
 イベント疲れがあったのは地方創生の現場に出てくる症状の一つ。問題はもっと根深いと感じています。というわけで、たまには私が地方創生の現場を実際に見て気づいたことから。なお、すべての事例を見ているわけではないので、あくまでも私の感覚値ですのであしからず。

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 そもそも地方創生の政策は現場が見えない中で動いています。国の指針はあり、調査は重ねられて全体方針はできてます。そして国として予算を付けて、実際に動ける環境を用意しました。国としては、あとは全体方針に従って予算を執行して、成果が上がってくればOK。ちなみにすごく真剣に考えて、それこそ命がけでやっている方たちもいます。そういった方たちを批判する意図はありません。

 しかしこの地方創生の全体方針に従って実際に各地域で戦略や計画を作るのは自治体の職員です。彼らはすでに日々の仕事で手一杯。手一杯になってる理由は煩雑化した行政手続きと複雑化した住民からの要望と、地方創生だけに限らないたくさんの国の指針への対応が折り重なるから。当然、ゆっくり考える時間なんてほとんどないから、場合によってはやっつけ的に戦略や計画を立てる。必然的にわかりやすい事例を引っ張ってくることになる。かつお金、つまり税金を動かすわけだから、あれこれ批判されないように成果が見えやすいものを選ぶ。だから観光・インバウンドという文脈で、単発的なイベントを選択することが多くなる。ちなみにあと多いのは地域商材開発という文脈で和牛などの食ブランド開発。雇用促進や生産性向上というところで企業誘致・IT化促進。健康関連も多い。どれもやっちゃえばそれなりに成果は見せられるし、少なくともニュースにできるわけです。

 では、この事例をどうやって集めているのでしょう。もちろん自身の調査もあります。しかし多いのはいわゆるコンサルタントとよばれる専門家たち。専門家が言っていることだから、というのは実に行政の中で通りがいい。地方創生がスタートした2015年。各自治体には戦略をつくるための予算もばらまかれました。それはほとんどがコンサル会社にながれ、地方創生の戦略・計画立案にコンサルタントを自治体は使えてしまったのです。

 もちろん、このコンサルタントが意義ある戦略・計画を立ててくれれば問題ないわけですし、実際そういう人もいます。しかしながら大半はそうではない。実情を見ると地方創生に関わったコンサルタントで多いのは金融系やIT系、広告・メディア関連。しかも東京の。はっきり言って地方の現場のことなんかわからない・知らないケースがほとんどだし、そもそも自分で経営もまちづくりもしたことがない知識だけ、もっと酷ければ肩書きだけのコンサルタントが多い。大学の先生がやってるケースもあるけれど、経営の現場経験がなく、これも頭でっかちなことが多い。 さらに悪いことに彼らもまた単年度でわかりやすい成果を出さなければならない。

 かくして形骸的な事例を持ち込むことで仕事にしたい非実践的・効果的なコンサルタントと、時間がいっぱいいっぱいでもなんとかわかりやすい戦略・計画を立てたい自治体全体方針に従って予算を使いたい国の三社の利害が一致してしまったわけです。

 さて、ここでひとつ疑問です。実際に地域に住み、地域で働き、地域に何かしらの形で現場で関わる人たちはどこにいったのでしょうか。驚くほど登場しません。強いて言えば有識者会議ぐらいでしょうか。当然出てくる人は少数。タウンミーティングなども行われますが、実質決めた後の方針説明会。地域との対話、とうたいながら実質説明するだけのことがあまりにも多い。

 当然、地域からは不満が出やすい。だから予算として地域が関わりやすい、成果を感じやすい施策を出すことになります。それがイベントです、コンサルタント、自治体、国の利害が一致した方針の中で、イベントをやる形をとれば住民も参加している形がとりやすく、不満も抑えやすい。短期的には集客・収入につながりますからね。

 しかし、イベントはあくまでも単発のカンフル剤。継続的な経営を考えるなら、戦術のひとつにすぎません。イベントも大事ですが、本来はそれ以上にイベントが終わった後が大事。しかし、もはやイベントにだけ目がいっているため、そんなことは見えません。イベントが終わったら「よかったね!」と言い、しばらくするとまた停滞して「イベントをやればいい!」という発想になる。これを繰り返すうちに投入する資源、大きなものでは行政予算がすり減っていき、イベント自体にも飽きがきて、思うように立ち行かなくなる。残されたものは大きな疲労感と、昔はよかったという想いでと、閉塞感というわけです。

 ではどうしろと?というと、答えは簡単です、単年度で考えることをやめること。地方創生を行政の予算執行対象としてみるのをやめること。地域をひとつの経営体としてみて、地域まるごとで経営を考えてみること。そして行政予算は地域経営に対する投資資金の一部と位置づけ、地域経営としての戦略モデルをつくること。これをコンサルタントのような専門家ではなく、地域の対話の中から作り上げていくこと。

 そんなことできるのか?という問いに対しては、できるとしか言いようがありません。すでに北九州のコワーキングスペース秘密基地や、日南の油津商店街がやってきたことが実証しています。北海道の岩見沢市は健康経営都市宣言をして新たな施策を展開しようとしています。

 地方創生を本当に実践するなら、より根深いところ・根源的なところに踏み込むかどうか。この1点が成果に大きくかかわるのかなと感じています。

 ちなみにこの議論をすると、すぐにだれだれが悪い、みたいな犯人探しがはじまります。それも間違いだと感じています。それぞれの立場からベストは尽くしているのは間違いない。後から批判することなんて誰にでもできるわけですから、これからどうしていくかの議論のほうが大事。犯人探しをしているほど、もう時間はないのですから。

 

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